ナレーション 「ある日の午前中、自宅の電話が鳴った。」 (電話の音) 高齢者 「はい。田中です。」 息子役の犯人 「もしもし。あのさ、ポストに郵便物届いてる? 実は、大事な商談があって、ケースの中に、書類と小切手と携帯と身分証と財布を全部入れてたんだけど。 喫茶店で商談相手の人を迎えに行こうとして、席を立った時に全部盗まれちゃったんだよ。 警察には連絡したから、連絡があったらよく聞いておいてもらえる? あ、あと携帯電話止めてあるから、連絡はしないでね。」 高齢者 「ヒロシかい?なにやってるの。…わかったわ。」 ナレーション 「その日のお昼、自宅の電話が鳴った。」 (電話の音) 高齢者 「はい。田中です。」 警察官役の犯人 「もしもし。私、警察の者ですが、東京駅の女子トイレの中で、息子さんの財布とポイントカードが捨てられていました。 東京駅の遺失センターに取りに来てもらいたいのですが。 確認の為、息子さんの名前や住所などを教えてもらえますか?」 高齢者 「はい。息子の名前は、ヒロシって言います。 息子の住所は…… あと、生年月日は…… それで、私の住所は……」 ナレーション(高齢者) 「こうして私は、警察を名乗る犯人に息子の名前、生年月日、住所、私の住所などの個人情報を伝えてしまったのです。」 ナレーション 「その1時間後、自宅の電話が鳴った。」 (電話の音) 高齢者 「はい。田中です。」 息子役の犯人 「もしもし。ヒロシだけど。 実はケースの中に契約書と小切手が入ってて、現金決済って形で小切手を預かってたんだよ。 その処理をどうするか、今話し合っているんだよ。 小切手の額面が1,500万円で、上司がどうにかしようとしてくれてる。 会社に迷惑もかけられないし、少しでもお金の工面をお願いできないかな?」 高齢者 「え、そうなの?…300万くらいだったら、なんとかできるわ。」 息子役の犯人 「本当?ありがとう。 じゃあ、また連絡するね。」 ナレーション 「その後、再び自宅の電話が鳴った。」 (電話の音) 高齢者 「はい。田中です。」 駅員役の犯人 「もしもし。私、大宮駅の者ですが、大宮駅に息子さんの書類が捨てられていました。 午後8時までに取りに来ていただけますか?」 ナレーション(高齢者) 「こうして私は、駅員を名乗る犯人と話をしたのですが、電話を切った後、息子から電話があり…」 息子役の犯人 「大宮駅から電話があったでしょ?俺が取りに行くからさ。」 息子役の犯人 「大宮に着いたんだけど、書類が汚れていて使い物にならない状態なんだよ。 書類は書き直さなきゃいけない。 なんでもするから。 300万取りに行くからお願いね。」 ナレーション(高齢者) 「…などと、何回か電話のやり取りをしたのです。」 ナレーション 「その日の夕方、再び自宅の電話が鳴った。」 (電話の音) 高齢者 「はい。田中です。」 息子役の犯人 「もしもし、母さん?今、会社の上司に替わるね。」 息子の上司役の犯人 「もしもし。私、ひろしさんの上司の鈴木と言います。 実は、書類を確認したところ、汚れていて使えない状態です。 今度の火曜日には、銀行で止められている小切手が悪用されなければ、現金にできるので、借用書も書きます。 自宅に佐藤という社員を行かせますので、300万円を渡してもらえますか?」 ナレーション(高齢者) 「こうして私は、これらの内容を信用し、孫の入学祝いなど自宅で保管していた現金300万円を袋に入れ、ヒロシの会社の人がお金を取りに来るのを待ちました。 また、ヒロシの会社の上司からは、電話を切らないよう言われていたので、通話状態のままで待っていました。 すると、少しして…」 息子の上司役の犯人 「お待たせしてすみません。今、社員の佐藤が自宅近くのヨダソウクリニックまで来ています。 お金を持ってそこまで行ってもらえますか?」 ナレーション(高齢者) 「…などと言われたのです。 私は、『分かりました。すぐ持っていきます。』と言い、指示された場所に向かいました。 私が指示されたクリニックに着くと、20代前半位のスーツを着た女が声をかけてきました。」 息子の同僚役の犯人 「すみません。田中さんですか?」 高齢者 「はい。そうです。 佐藤さんですか?この度は、息子がご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。 これ、お願いします。」 ナレーション(高齢者) 「こうして私は、300万円の入った紙袋を渡しました。 その後、女は急いで駅の方向へ行ってしまいました。」 ナレーション 「翌日の午前中、再び自宅の電話が鳴った。」 (電話の音) 高齢者 「はい。田中です。」 息子役の犯人 「もしもし、ヒロシだけど。昨日はありがとう。 実は、違約金を支払わなくちゃいけなくて、あと480万円も足りないんだよ。 払えないと契約が止められちゃうかもしれないから、もう少しなんとかならないかな?」 高齢者 「えぇ…。そんなお金ないわよ。 …まぁ、50万くらいならなんとかできるけど…。」 息子役の犯人 「悪いけど、そうしてくれるかな?助かるよ。」 ナレーション(高齢者) 「こうして私は、催促された50万円を用意するため、駅前のヨコヨコ銀行の窓口にお金を下ろしに行ったのです。 この時、銀行の方から『このお金は何に使うのですか?』と聞かれたのですが、早くお金を用意しなければならないと思い、咄嗟に孫の入学祝いで現金が必要だと嘘をつきました。 その話をしたところ、行員の方も納得し、現金50万円を無事に下ろすことができました。 自宅に戻ると息子から電話があり、昨日と同じ場所で、昨日と同じ会社の方がお金を取りに来てくれるとのことだったので、指示どおり昨日と同じとおりにお金を渡してしまったのです。 夕方になり、息子の事が心配になったので、夫が息子の奥さんに電話をしたところで、これまでの事が全て嘘の話で、だまされたことに気が付いたのです。 こうして私は、オレオレ詐欺の被害に遭ってしまったのです。」