○神奈川県警察DNA型鑑定運用要領の制定について (平成23年8月31日例規第22号/神科発第125号) 各所属長宛て 本部長  このたび、別添のとおり神奈川県警察DNA型鑑定運用要領を制定し、平成23年9月1日から施行することとしたので、運用上誤りのないようにされたい。 別添    神奈川県警察DNA型鑑定運用要領 1 趣旨   DNA(Deoxyribonucleic acid デオキシリボ核酸)型鑑定の適正な運用を図るため、神奈川県警察が行うDNA型鑑定に関し必要な事項を定めるものとする。 2 DNA型鑑定の意義及び活用の目的  (1) 意義    DNA型鑑定は、ヒト身体組織の細胞内に存在するDNAの塩基配列の多型性に着目し、これを分析することによって、個人を高い精度で識別する鑑定法である。    なお、この鑑定は、遺伝病等の特定の遺伝形質の有無及びその内容を分析するものではなく、また、それらが可能な鑑定法ではない。  (2) 活用の目的    DNA型鑑定は、血痕等の現場資料からの被疑者の特定又は被疑者でない者の捜査対象からの除外等の個人識別に活用するものとする。    なお、「被疑者でない者の捜査対象からの除外」とは、容疑者全てについてDNA型鑑定を実施しなければならない旨を意味するのではなく、誤認逮捕の防止、被疑者の絞り込み等に活用するなどDNA型鑑定の有用性を意味するものである。 3 鑑定員   神奈川県警察科学捜査研究所(以下「科捜研」という。)におけるDNA型鑑定は、科学警察研究所の法科学研修所において所要の研修課程を修了し、科学警察研究所長からDNA型鑑定資格認定書(以下「認定書」という。)の交付を受けた鑑定技術職員が行うものとする。鑑定書の作成にあっては、高度な専門的知識及び技能を必要とするほか、警察における統一的な運用を図る必要があることから、認定書を有する鑑定技術職員が作成するものとする。   なお、DNA型鑑定に係る検査については、認定書を有しない鑑定技術職員が検査補助者として作業に当たることは差し支えない。 4 検査施設   DNA型鑑定に係る検査は、その安全性を確保するため、空調設備及びエアシャワー付のクリーンルームを備えたDNA型検査専用施設(以下「DNA型検査施設」という。)等において行わなければならない。また、当該DNA型検査施設は、定期的に点検を行い、おおむね次に掲げる性能の維持に努めなければならない。  (1) 温度 28℃を超えない程度  (2) 湿度 60%を超えない程度  (3) エアクリーン度 JIS清浄度クラス7程度   なお、DNA型鑑定に係る検査工程のうち、DNAの抽出からポリメラーゼ連鎖反応による増幅(以下「PCR増幅」という。)の工程は、DNA型検査施設において行い、PCR増幅後の工程は、少なくとも空調設備を備えた検査施設において行わなければならない。 5 鑑定方法等   鑑定方法は、科学警察研究所長が別に定める鑑定方法により実施し、検査機器及び検査試薬は、科学警察研究所長が指定するものを使用しなければならない。ただし、指定以外の検査機器及び検査試薬は、一般的にDNAの研究目的で市販されているものを使用 しても差し支えない。 6 鑑定資料   DNA型鑑定の対象となる資料(以下「資料」という。)で、その主なものは次のとおりである。  (1) 血液((2)の血液を除く。)・血痕、精液・精液斑、精液及び膣液等の混合液・混合斑、唾液・唾液斑、毛根鞘(しょう)の付いた毛髪、皮膚、筋、骨、歯、爪並びに臓器等の組織片  (2) 被疑者又は被害者等から提出を受けた口腔(くう)内細胞及び被疑者の身体から採取した血液 7 鑑定資料取扱上の留意事項  (1) 採取時等の留意事項    資料の採取等に当たっては、次に掲げる事項に留意するとともに、採取状況及び採取経過を明らかにするなど証拠の証明力の確保に努めるものとする。また、資料を取り扱う際には、直接手指でこれに触れることのないようにしなければならない。   ア 乾燥血痕等の採取   (ア) 凶器、着衣等に付着した血痕、精液斑等については、可能な限り付着したままの状態で採取すること。ただし、持ち運びが困難なものに付着しているなどこれにより難く、かつ、乾燥して血粉状又は鱗(りん)片状を呈するなど剥離可能な場合は、これを剥がし取って採取すること。   (イ) (ア)の方法のいずれにもより難い場合には、蒸留水又は生理的食塩水で湿らせた、刑事部鑑識課長(以下「鑑識課長」という。)の指示する採取用具で採取すること。この場合、鑑定の容易性を考慮し、できるだけ濃い状態での採取に努めること。   イ 未乾燥又は流動性を有する血液(6(2)の血液を除く。)、精液等の採取     注射筒等を用いて資料を容器に入れて採取すること。ただし、資料の量が少ないなど、これにより難い場合は、鑑識課長の指示する採取用具で採取すること。   ウ 死体の心臓血及び筋、臓器(心臓、肝臓、腎臓等)等の組織片の採取     鑑定の容易性を考慮し、損壊していないものを採取するよう努めること。   エ 毛髪の採取及び収納     毛髪は、一本ごと個別に採取し、収納する際の容器等は、毛根鞘(しょう)が密着して剥離が困難となるものは避け、毛根鞘(しょう)の脱落防止を図ること。   オ 血痕予備検査試薬等の使用限度     血痕を検索する際に使用する血痕予備検査試薬(ロイコマラカイトグリーン試薬、ルミノール試薬等)、精液斑を検索する際に使用する精液予備検査試薬(SM試薬)等については、その使用回数、方法等を誤ればDNAを破壊するおそれがあるため、その使用は必要最小限にとどめること。   カ 口腔(くう)内細胞の提出を受け、又は血液を採取する場合の措置     資料として被疑者又は被害者等から口腔(くう)内細胞の提出を受け、又は被疑者から血液を採取する場合には、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)等の定めに従い、適切に行うこと。     なお、資料の採取に当たっては、鑑定に必要な量を採取するものとする。   (ア) 口腔(くう)内細胞の提出を受ける場合      口腔(くう)内細胞の提出を受ける場合は、鑑識課長の指示する採取用具を使用するとともに、提出者に対し、採取方法について説明を行い、提出者本人に採取させた後、提出者の面前で密封を行うこと。その際、採取資料を汚染及び混同することのないよう十分注意すること。   (イ) 血液を採取する場合      新鮮血を採取する場合は、検査の容易性を考慮して、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等の凝固防止剤を用いて凝固防止に努めるものとする。      被疑者の身体からの採血は、その形態に鑑み、鑑定処分許可状の発付を得て行わなければならないが、採血の際に被疑者の抵抗が予想されるなど直接強制が必要な場合には、鑑定処分許可状と併せて身体検査令状の発付を得て行うこと。   キ 採取等を行った資料の保存の措置     採取等により得た資料は、鑑定嘱託されるまでの間、他の資料との接触及び混同を防止するため、神奈川県警察情報管理システム(神奈川県警察情報管理システム運用管理規程(平成14年神奈川県警察本部訓令第9号)第2条第1号に規定する情報管理システムをいう。)により出力したバーコード票(以下「バーコード票」という。)を貼付するなどして、採取等年月日、事件名、資料名等を明らかにし、個別の容器等に収納保存すること。また、資料の変質、損壊等を防止するため、必要に応じて凍結破損しない容器等に収納し、警察署等に備付けの冷凍庫又は科捜研に備付けの超低温槽の活用を図ること。  (2) 現場資料の鑑定及び鑑定後の留意事項    鑑定はなるべく資料の一部をもって行い、当該資料の残余又は鑑定後に生じた試料(科捜研において鑑定に使用するため資料から採取等して分離したものをいう。以下同じ。)の残余は、再鑑定(科捜研が行うDNA型鑑定自体が将来高度化するなどの鑑定技術の進歩向上等を踏まえ、捜査の必要により行う再鑑定を含む。)に配慮し、保存すること。   ア 再鑑定に配慮した試料の残余の措置     試料の残余が生じた場合は、鑑定員が個別の容器等に収納し、鑑定嘱託をした警察署等へ資料の残余と共に返却するものとする。その際、鑑定書等において、試料の採取部位とその残余の関係を明らかにし、鑑定後に返却した旨を記載するなど、それぞれの関係性が担保されるよう配慮すること。また、鑑定嘱託等をした警察署等は、試料の残余が収納された容器等に、新たに作成したバーコード票を貼付するなどして、資料の採取等年月日、事件名、試料名及び資料の残余との同一性を明らかにしておくこと。   イ 資料の残余又は試料の残余の適切な保存   (ア) 収納及び冷凍庫等での保存      資料の残余又は試料の残余は、他の資料等との接触及び混同を防止するため、凍結破損しない個別の容器等に収納した状態で保存するものとし、再鑑定に配慮し、冷凍庫又は超低温槽を積極的に活用すること。特に臓器等、超低温槽での保存が適切と判断されるものについては、科捜研と協議の上、適切な保存を行うこと。      なお、鑑定後に生じた試料の残余での再鑑定が可能と認められた場合は、試料の残余のみ冷凍庫等で保存することで差し支えない。   (イ) 分類保存      資料の残余又は試料の残余は、(ア)による保存の措置を講じた上、それぞれ分類保存するとともに、冷凍庫等には簿冊を備え付け、保存の状態を適正に管理しなければならない。  (3) 口腔(くう)内細胞等の資料の残余の措置    被疑者又は被害者等から提出を受けた口腔(くう)内細胞及び被疑者の身体から採取した血液に残余が生じた場合には、次により措置するものとする。   ア 任意提出を受けた口腔(くう)内細胞     被疑者又は被害者等から任意提出を受けた口腔(くう)内細胞については、任意提出書の提出者処分意見欄の記載に従って措置することとなるが、警察の処分に委ねられている場合はこれを廃棄すること。   イ 鑑定処分許可状等により採取した血液等     鑑定処分許可状等により被疑者の身体から採取した血液等は廃棄すること。 8 鑑定書等の取扱い及び保管   鑑定書その他鑑定結果又はその経過等が記録されている書類には個人情報が含まれているため、その取扱いに当たっては、刑事訴訟法第196条、犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)第9条及び国家公務員法(昭和22年法律第120号)第100条又は地方公務員法(昭和25年法律第261号)第34条の定めに従い、適切に取り扱うとともに、将来の公判等に備え、鑑定の客観性・信用性が担保されるよう適切に保管しなければならない。 附 則