○神奈川県警察ち密な捜査推進強化対策要綱の制定について (平成2年12月26日例規第57号/神刑総発第911号) 最終改正 平成14年3月29日例規第25号 各所属長あて 本部長 ち密かつ適正な捜査を推進するため、みだしの要綱を制定し、平成3年1月1日から実施することとしたので、次の事項を部下職員に周知徹底し、実効をあげるよう配意されたい。 おって、公判連絡係の設置に伴う運用について(昭和62年3月19日神刑総発第138号)は、廃止する。 記 第1 制定の趣旨  最近、裁判実務の変化、弁護活動の活発化等により、公判において自白の任意性、信用性が争点となることが多くなり、一層厳格な事実認定がなされる傾向にある。また、検察においても警察送致事件に対する関与の在り方が検討されているところである。  このような情勢下において、今後、事件捜査は重要事件に限らず日常的に発生するすべての事件について、初期的捜査段階からち密かつ適正な捜査を組織的、実践的に推進し、公判への的確な対応を図り、第一次かつ独立捜査機関としての警察責務を全うするため、本要綱を制定するものである。 第2 解釈及び運用上の留意事項 1 総則 (1) 指導事件(第2条関係)  本部要指導事件(以下「指導事件」という。)は、警察署長の事件指揮に基づいて警察署が独自で捜査する事件(警察本部からの応援があっても、警察署長の指揮で捜査を行う事件及び警察本部から引継ぎを受けた事件を含む。以下同じ。)のうち、所要の捜査を尽くしたが、なおかつ公判(少年事件における審判を含む。以下同じ。)において立証上の問題が生じるおそれがあって、今後、警察本部の指導を要すると警察本部長(以下「本部長」という。)が判断したものを指定することとした。 (2) 公判対応事件(第3条関係)  検察庁に送致(付)した事件が起訴された段階で公判維持が危ぐされる場合等の事件を規定したが、その解釈は次のとおりである。 ア 「指導事件のうち、起訴された事件」とは、起訴後においても引き続き公判対応を要すると認める事件をいう。 イ 「本部長指揮事件のうち、起訴され公判において立証上の問題が生じるおそれのある事件」とは、第2条(指導事件)に掲げる各号に該当し、現に公判維持が危ぐされる事件をいう。 ウ 「警察職員が証人出廷する事件」とは、警察職員が証人として出廷し又は証人出廷が予想される事件をいう。 エ 「控訴又は上告事件」とは、控訴又は上告され、引き続き公判の推移を把握する必要のある事件をいう(量刑不当を理由とするものは除く。)。 オ 「その他公判の対応を必要と認める事件」とは、次のような事項に該当し公判維持が危ぐされる事件又は特に公判対応を必要と認める事件等をいう。 (ア) 補充捜査、再鑑定の必要が生じた事件 (イ) 犯罪を証明するための証拠が乏しい事件 (ウ) 過去に無罪、嫌疑なし等の経歴を有する者に係る事件 (エ) 捜査の手続面等において争いが予想される事件 (オ) 知名人等が関係する社会的反響の大きい事件 2 指導事件への対応 (1) 捜査の徹底(第4条関係)  警察署長は、事件指揮に当たっては、事案の真相を確実に把握し、事件の捜査を担当する課長(以下「署担当課長」という。)に対し徹底した指揮を行い、ち密かつ適正な捜査の推進に努めるものとする。  捜査運営の直接の責任者である署担当課長は、事件捜査に当たっては、常に公判を考慮し、捜査過程の各段階において、「事件指揮について」(昭和41年3月8日 例規、神捜三発第79号)に基づき、警察署長事件指揮簿(以下「署長事件指揮簿」という。)に事件指揮の内容、経過等を具体的に記載し、また「捜査権運用の充実強化について」(昭和44年1月14日 例規、神刑総発第11号)、「捜査権運用の充実強化に伴う細部事項の運用について」(昭和44年1月14日 例規、神刑総発第12号)に定める逮捕状請求検討票、各種令状請求検討票を有効に活用して、当該事件の捜査の不備、問題点を早期にチェックし、漏れのない基本を尽くしたち密な捜査を遂行しなければならない。 (2) 指導事件の報告及び指定(第5条関係) ア 警察署長は、指導事件該当の有無について、別表「指導事件検討票」により署担当課長に検討させ、その結果、指導事件に該当すると認めたときは、当該事件の署長事件指揮簿の写しに指導事件検討票の写しを添えて、事件の捜査を主管する警察本部の課長(以下「主管課長」という。)を経由して報告するものとし、指導事件検討票は署長事件指揮簿に添付しておくものとする。  なお、この報告は、事件の捜査をしていく上で少しでも難しい局面になれば何等の検討もすることなく警察本部の指導を受ければよいとするのではなく、その取扱う事件について所要の捜査を尽くしたが、なおかつ立証上の問題が生じるおそれがあると認められた場合に行うものである。 イ 主管課長の調査、検討  主管課長は、指導事件に該当する旨の報告を受けたときは、当該事件に対する捜査状況、問題点等について、調査及び検討を行い指導事件に指定する必要性を判断するものとする。 (3) 主管課長の措置(第6条関係) ア 指導事件に対する主管課長の指導は、捜査指揮ではなく、あくまで指導、助言等であって、捜査指揮の責任が警察署長にあることを変更するものではない。したがって、当該事件の捜査はあくまでも警察署が主体となって行い、警察本部はこれに対し補完的、補充的立場から指導を行うものである。 イ 主管課長は、当該所属の課長補佐等の中から指導事件の指導に当たる指導担当者(以下「担当補佐」という。)を指定し、その指導に当たらせるものとする。 ウ 主管課長は、当該事件の捜査につき、警察署が裏付け捜査等の基本を尽くしているか否かを確認し、基本が尽くされていない場合は改善するように助言を行い、基本が尽くされていてなおかつ公判において立証上の問題が生じるおそれがある場合、事後どのようにして公判に耐え得る捜査を実施すべきかを分析、検討し、その事件に即した具体的な指導を行うものとする。 (4) 指導担当課長との連絡(第6条関係)  主管課長は、警察署長から報告された事件が指導事件に指定された場合は、当該事件の署長事件指揮簿の写しを当該部の捜査の指導に関する事務を分掌する課長(以下「指導担当課長」という。)に送付して十分な意思の疎通を図っておくものとする。 (5) 事件指導簿の備付け(第6条関係) ア 事件指導簿は、指導事件に関し、これが的確に把握され、これに対する警察本部の指導が適切になされ、この指導に基づいて警察署の捜査を的確に行うため、指導及び捜査の経緯を確実に記録するものである。 イ 事件指導簿は、指導事件ごとに主管課及び警察署に備え付けなければならないが、警察署にあっては、当該事件の署長事件指揮簿、また、主管課にあっては、警察署から送付された署長事件指揮簿の写しの表面上部欄外にそれぞれ「事件指導簿」と朱書し、次の事項を記載することによって事件指導簿として併せ用いることができる。 (ア) 指導事件に該当すると認めた具体的理由 (イ) 警察署における捜査方針 (ウ) 警察本部の指導内容 (エ) 指導内容に基づいた警察署の捜査結果 3 公判対応事件への対応 (1) 公判対応事件の報告及び指定(第7条関係) ア 警察署長の公判対応事件に該当する旨の報告は、主管課長を経由して報告するものとする。この場合、必要に応じて当該事件の署長事件指揮簿、捜査関係書類等の写しを送付するものとする。 イ 主管課長は、公判対応事件に該当する旨の報告を受けたときは、指導担当課長に必要により当該署長事件指揮簿等の写しを送付するとともに連携を密にして、公判対応事件の指定の判断を行うものとする。 (2) 指導担当課長の措置(第9条関係) ア 公判対応担当者の指定  公判対応を担当する係が置かれていない事件主管各部の指導担当課長は、当該所属の指導官、課長補佐又は係長の中から公判対応に当たる担当者(以下「公判対応担当者」という。)を指定するものとする。 イ 公判対応担当者は、署担当課長、担当補佐及び指導係と緊密な連携を保持し、当該事件に関する公判上の争点、問題点を把握、検討して適切な公判維持の対応に努めるものとする。 ウ 公判対応係は、関係所属との緊密な連携及び公判担当検事との連絡に努めるものとする。 4 無罪事件等の措置 (1) 無罪事件の分析、検討等(第10条関係) ア 分析、検討要領  無罪判決が出された事件(刑事責任を問えない者によるもの及び正当防衛に該当するものは除く。)は、おおむね次の手順により分析、検討するものとする。 (ア) 判決文を入手し、その中で指摘されている諸点をピックアップする。 (イ) 判決において指摘されている諸点と捜査記録及び被害者、参考人及び被告人等の公判における供述を比較対照し、判決において指摘されることとなった原因を分析する。 (ウ) 捜査記録、公判記録等を総合的に分析、検討するなど、当該事件における捜査指揮の状況、取調べ、証拠収集、図面作成等の状況と判決における指摘事項との因果関係等を分析する。 イ 検討会の開催  必要がある場合は、当該事件に関係した捜査幹部及び捜査員を出席させ、次の項目について検討するものとする。 (ア) 証拠に関すること (イ) 捜査段階における捜査の不備、誤り (ウ) 公判におけるフォロー不足 (エ) 捜査員の公判出廷に係る教養の不足 (オ) 被害者、参考人等に対する事件起訴後のフォロー不足 (カ) 公判廷における被害者、参考人の供述の変遷、後退の原因 (キ) その他 (2) 不起訴事件の分析、検討等(第11条関係) ア 警察署長は、逮捕事件又は起訴相当と認めて任意送致(付)した事件が不起訴処分となったときは、主管課長を経由して報告するものとする。 イ 主管課長及び警察署長は、不起訴事件を認知したときは早期に担当検事と連絡を密にして当該事件の不起訴理由、問題点等を明らかにしておくものとする。 ウ 不起訴事件の分析、検討は、無罪事件の分析、検討要領に準じて行うものとする。 (3) 困難な立証に成功した事件の分析、検討等(第12条関係) ア 困難な立証に成功した事件の対象は次のものをいう。 (ア) 物証がなく被疑者も否認し又は供述の変遷が著しい事件において、情況証拠の積み上げ等により有罪判決を得た事件 (イ) 共犯者の供述以外に有力な証拠がなく、被告人も公判で否認しているにもかかわらず、有罪判決を得た事件 イ 困難な立証に成功した事件の分析、検討は、無罪事件の分析、検討要領に準じて行うものとする。 (4) 分析、検討資料の活用(第13条関係)  無罪事件等及び困難な立証に成功した事件について分析、検討した結果は、事後の捜査に反映させるための執務資料等を作成し、また、新任捜査担当課長研修、捜査専科教養等の生きた教材として積極的に活用するものとする。