神務発第580号  平成23年4月20日  本部各部長 警察学校長 市警察部長 方面本部長 組織犯罪対策本部長 運転免許本部長 各所属長 殿 警察本部長  警察改革精神の持続的な継承について(通達)  警察改革については、平成12年8月に国家公安委員会・警察庁が策定した「警察改革要綱」等に基づき、国民の警察に対する信頼と治安の回復のために、全国警察が一丸となって、各種施策に取り組んできたところであり、中でも、本県警察は、警察改革の発端となった一連の非違事案を発生させたことに鑑み、改革を成し遂げる先駆者となるべく、全ての職員が心を一つにして、全力で諸施策を推進してきたところである。  このような中、平成22年9月、国家公安委員会・警察庁は、警察改革として掲げた施策は着実な成果を上げており、改革はおおむね所期の目的を達成したと評価し、今後は、「警察改革精神」の具現化である個々の施策については、日常的に推進する施策の中で、更なる定着化・深化を図ることを指向していくこととした。  これを受け、本県警察は、平成12年から平成22年までの間における警察改革の推進状況について取りまとめた上、本県公安委員会に報告したところであるが、信頼と治安の回復に向けて一定の成果を挙げるに至っているものの、いまだに職員による非違事案は後を絶たない現状を踏まえ、「警察改革精神」の持続的な継承が必要であることを改めて認識したところである。  そこで各所属長は、警察改革として取り組んできた各施策について、更なる定着化・深化を図る必要があることを踏まえ、所属職員に対して警察改革に関する教養を徹底するなど、「警察改革精神」を途絶えさせることがないよう努められたい。また、「警察改革要綱」策定後に採用された職員に対する教養については、特段の配慮をされたい。 記 1 本県公安委員会への報告  (1) 報告年月日 平成23年4月13日(水曜日)  (2) 報告概要 別添1「公安委員会個別報告資料」のとおり  (3) 公安委員会委員発言要旨 「警察改革に盛り込まれた施策を定着化・深化させていくためには、決して卑屈になる必要はないが、その発端となった神奈川県警察における非違事案の全貌を職員に再認識させる必要がある。その上で、これまで先駆的なあらゆる施策を講じてきた結果として、現在のあるべき姿になったということをしっかり教養してほしい。特に、若い警察官には確実に継承してほしい。」 2 教養の実施  (1) 実施時期 東日本大震災への対応等、業務多忙な最中ではあるが、全国警察が総力を挙げて被災者の救援、復興等のための諸対策に取り組んでいる現下こそ、警察改革精神を肝に銘ずる必要があることから、平成23年6月末日までには実施すること。  (2) 実施方法 次のとおり、教養実施方法を例示するので、前記1(3)の公安委員会委員発言要旨及び別添2「警察改革の推進状況 神奈川県警察における取組みと今後の方針」を参考とし、所属の実情に応じて実効ある方法で実施すること。  ア 所属長自らによる教養の実施 招集日、幹部会議、地域警察の配置時教養等を活用し、自己の経験や事例を踏まえた講話等を行う。  イ 倫理研修班活動のテーマとして設定 別添1及び別添2を活用し、倫理研修班活動のテーマとして「警察改革を踏まえ将来の神奈川県警察はどうあるべきか」など、建設的な討議を行わせる。  ウ 教養課倫理教養支援班の活用 幹部会議や倫理研修班活動等のあらゆる機会を捉えて、教養課倫理教養支援班の巡回教養を要請する。  エ 体験談の発表 招集日等を活用し、警察改革に関連して第一線の警察活動において苦慮した事項、印象に残っている事項等を発表させる。  オ 感想文の作成 平成13年以降に採用された職員を対象に、警察改革に関する感想文を作成、発表させる。  カ 部外講師講演の実施 部外講師による警察改革を題材とした「倫理講話」を実施する。  キ 教養課教育参与の活用 教養課教育参与を積極的に活用し、「警察改革」を題材とした講話を依頼する。  ク 監察官室員による「出前型教養」の活用 招集日、幹部会議等に監察官室予防監察係員を招致し、警察改革に関連した非違事案防止教養を実施する。  (3) 教養実施結果の報告 各所属長は、教養実施結果について、教養実施後速やかに適宜の様式により、警察本部長(警務部警務課長経由)に報告すること。 3 その他  本県警察における警察改革の推進状況の詳細については、「警察改革の推進状況 10年間の総合評価」として取りまとめ、後日送付することから、参考とされたい。 別添1 公安委員会個別資料 警察改革の推進状況について 平成23年4月13日 警務部 1 経緯  平成11年 秋 本県をはじめ、全国的に警察における不祥事が続発し、国民の警察に対する信頼が失墜  平成12年3月9日 有識者による「警察刷新会議」の発足  平成12年7月13日 「警察刷新会議」が、『警察刷新に関する緊急提言』を提出  平成12年8月25日 国家公安委員会・警察庁が「警察改革要綱」を策定  平成17年12月22日 警察庁長官により、「警察改革の持続的断行について」が通達され、国家公安委員会・警察庁が取りまとめた、「警察改革を持続的に断行するための指針(以下「指針」という。)」が示された。  平成22年9月2日 警察庁長官により。「「警察改革」に盛り込まれた各施策の定着化・深化について」が通達され、改革はおおむね所期の目的を達成したとしつつ、個々の施策は日常的に推進する施策の中で更なる定着化・深化を図ることを指向していくことが示された。 2 総合評価 (1)評価の対象とした施策 警察改革要綱(平成12年8月 国家公安委員会・警察庁) 1 警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化 2 「国民のための警察」の確立 3 新たな時代の要請にこたえる警察の構築 4 警察活動を支える人的基盤の強化 警察改革を持続的に断行するための指針 (平成17年12月 国家公安委員会・警察庁) 1 「警察改革要綱」の着実な実施と充実 2 治安の回復 3 幹部を始めとする職員の意識改革 4 不祥事案の防止 5 公安委員会の管理機能の一層の充実強化と警察改革の推進状況の不断の検証 (2)評価期間 平成12年から平成22年までの間 (3) 評価結果の概要 別添のとおり。 3 今後の方針等 (1) 警察改革の定着化・深化 透明性の確保、自浄機能の強化、説明責任の徹底といった基本的な考え方を堅持しつつ、「警察改革の精神」の具現化である個々の施策について、日常的に推進する施策の中で、更なる定着化・深化を図る。 (2) 治安水準の更なる向上 現場主義を徹底するとともに官民一体となった取組みを展開することで、新たな治安情勢に的確に対応し、治安水準の更なる向上を図り、もって安全で安心して暮らせる地域社会の実現を目指す。 別添 省略 別添2 警察改革の推進状況 神奈川県警察における取組みと今後の方針 第1 警察改革の経緯 1 発端  警察改革の発端は、平成11年、神奈川県警察において明らかとなった複数の非違事案であった。  「警察署集団警ら隊(当時)内部での集団暴行事案」が明るみになったのを皮切りに、「警察署刑事課員による捜査関係者に対する恐喝事案」、「本部所属警察官の覚醒剤使用事件を当時の警察本部長等が隠蔽した事案」などが次々と明らかになった。  神奈川県警察は、事案のいくつかについて事実と異なる不適切な発表をしていたが、後日、一転して事実関係を公表したことにより大きく報道され、「不適切なマスコミ発表」、「警察の隠蔽体質」等が問題視された。  また、同時期に全国的にも、「不適切広報」、「職務怠慢」といった批判に繋がる事案の発生が相次ぎ、社会的に大きな問題となり、警察に対する国民の信頼を失墜させることとなった。 2 問題点  一連の警察非違事案を受け、後述する警察刷新会議は、我が国の警察の持つ問題点として  閉鎖性の危惧・国民の批判や意見を受けにくい体質・時代の変化への対応能力不足  を指摘し、  透明性の確保と適切な是正措置のための方策・国民の要望や意見を鋭敏に把握し誠実な対応をする方策・時代の変化に対応する柔軟で強力な警察活動基盤の整備方策  が必要であると提言することとなり、このことが警察改革要綱の策定へと繋がることとなった。 3 警察改革要綱の策定  一連の非違事案は、神奈川県警事案の発生を受け、警察庁主導の下、非違事案防止のための諸対策を推進中であったにもかかわらず、依然として後を絶たず発生したことが、警察に対する国民の信頼を著しく低下させる結果となった。  そこで、相次ぐ警察の非違事案に対する国民の不信感の払拭と警察のあるべき姿を客観的に考察するため、第三者組織を発足させ、警察改革は次のとおり断行された。 (1) 警察刷新会議の発足(平成12年3月) 一連の非違事案の発生を受け、国家公安委員会は、警察の刷新改革の方策について各界の有識者からの意見を聴取する場として、「警察刷新会議」を発足させた。 (2) 警察刷新に関する緊急提言(平成12年7月) 「警察刷新会議」は、相次ぐ警察非違事案に対する国民の信頼回復のため、警察が取り組むべき施策を検討すべく、公聴会、国家公安委員からの意見聴取、警察当局からの現状報告を受けつつ討議を重ね、平成12年7月、「警察刷新に関する緊急提言」を取りまとめ、国家公安委員会に提言した。 (3) 警察改革要綱の策定(平成12年8月) 国家公安委員会及び警察庁は、「警察刷新に関する緊急提言」を受け、警察が当面取り組むべき改革施策について「警察改革要綱」として取りまとめ、警察改革施策を的確に推進するよう通達した。 骨子  警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化  「国民のための警察」の確立  新たな時代の要請にこたえる警察の構築  警察活動を支える人的基盤の強化 4 警察改革の持続的断行(平成17年12月)  全国の警察が警察改革に取り組んで5年が経過する中、国家公安委員会及び警察庁は、警察改革はいまだ道半ばにあるとの認識の下、「警察改革を持続的に断行するための指針」をとりまとめ、警察改革を持続的に断行し、治安と信頼の回復に努めるよう通達した。 骨子  治安の回復  幹部を始めとする職員の意識改革  非違事案の防止  公安委員会の管理機能の一層の強化と警察改革の推進状況の不断の検証 5 「警察改革」に盛り込まれた各施策の定着化・深化(平成22年9月)  警察庁及び国家公安委員会は、10年間の警察改革への取組みについて政策評価を行い、「警察改革」として掲げた施策は着実な成果を上げており、改革はおおむね所期の目的を達成したと評価する一方、「透明性の確保」、「自浄機能の強化」、「説明責任の徹底」といった基本的な考え方は、将来の警察行政においても堅持されるべきものとし、警察改革における個々の施策については、日常的に推進する施策の中で更なる定着化・深化を図ることを指向していく旨を通達した。 第2 神奈川県警察における取組み 1 全国初の公安委員会による監察指示(平成13年4月)  神奈川県警察は、全国の警察が取り組んできた「警察改革」の、いわば発祥の地とも言うべきところであったが、前記第1の1に記載している非違事案に加え、その後も重大な非違事案が相次いだことから、再発防止の一層の徹底を図るため、人事管理、教養、身上把握、組織の士気高揚等の諸事項について、全国で初めて公安委員会から監察の指示を受け、特命監察を実施した。 2 警察改革要綱の着実な推進  神奈川県警察では、前記監察指示を受け、「神奈川県警察は非常事態である」との認識を全ての職員に植え付け、警察改革要綱の着実な推進に努めることとし、警察改革に取り組む要因となった多くの非違事案の反省に立ち、また、何よりも県民が安全で安心して暮らせる地域社会を実現するため、「治安と信頼の回復」を旗印として、全職員が一丸となって意識改革と職務倫理の確立を始めとする改革を実行した。  具体的には、  神奈川県公安委員会の管理機能や補佐体制を強化するため公安委員会室の設置  警察署協議会や文書による苦情申出制度の創設  識別章の導入、名札の着用基準の明確化  予防監察体制の整備 など、警察改革要綱に基づく施策を推進するとともに、特命監察において明らかとなった神奈川県警察の問題点の改善策である  意識改革の徹底による組織の体質改善  管理機能の強化による業務管理の徹底  身上指導の強化と厳正な対応  厳正公平な人事管理と職場の活性化による士気の高揚  業務の合理化等による負担の軽減  生活基盤を安定させる施策の推進  など、数多くの施策に取り組んできた。 3 検証の実施  神奈川県警察における警察改革の推進状況については、警察改革を持続的に断行するための指針に基づき、毎年、神奈川県公安委員会に報告してきたところであるが、平成22年9月、「「警察改革」に盛り込まれた各施策の定着化・深化について」が通達されたことを期に、改めて、「警察改革要綱」及び「警察改革を持続的に断行するための指針」に掲げられた各施策について、平成12年から平成22年までの推進状況を検証した。 4 成果  空き交番の解消や官民一体となった安全・安心まちづくりの推進、加えて、組織犯罪対策やサイバー犯罪対策などを強力に推進してきた結果、治安の回復については、平成14年に戦後最多の19万件台を記録した刑法犯認知件数は、平成22年には平成初期の水準である9万件台まで減少させ、また、19%台まで減少した刑法犯の検挙率も38.5%まで向上させるなど、一定の成果を挙げるに至った。  また、警察改革精神の浸透と各種非違事案防止施策の推進により、懲戒処分者数も平成14年以降は大幅に減少し、県民の信頼回復に資する結果となった。 第3 現状の課題 1 県民の意識  平成22年に神奈川県が実施した県民の意識調査(県民ニーズ調査)において、県行政を進めていく上で力を入れてほしい分野の第1位が「治安対策」であった。  刑法犯認知件数の減少、刑法犯の検挙率の向上など、指数治安の向上が見られる中で、かかる結果となったことは、県民の不安をあおる重要犯罪や子ども、女性、高齢者等を被害者とする犯罪の発生、犯罪のグローバル化、サイバー犯罪の増加等、治安に対する重大な脅威の出現などにより、県民の体感治安の回復は未だ道半ばであることの証左であり、神奈川県警察に寄せる県民の期待の現われとも言える。 2 捜査を取り巻く情勢の変化  多様化する犯罪、司法制度改革、重要凶悪事件の公訴時効の廃止・延長など、犯罪捜査を取り巻く情勢は極めて厳しい状況にあることから、警察職員一人一人が関係法令、捜査手法等を研鑽することが求められている。 3 大規模災害対策  平成23年3月11日に発生した東日本大震災は、未曾有の被害を発生させ、亡くなられた方は1万人を超えるばかりか、今なお多くの方の所在が判明せず、被災者の方々は困難な状況下での避難生活を余儀なくされている。  神奈川県警察としては、現地警察に対して最大限の助力を行いつつ、県内においても東京電力による計画停電の実施に伴う、信号機の滅灯、公共交通機関の混乱などに的確に対応し、県民の安全・安心を確保していかなくてはならない。  また、発生が予想される東海地震、神奈川県西部地震、首都直下型地震等への備えも、改めて万全を期す必要がある。 第4 今後の方針 1 警察改革の定着化・深化  神奈川県警察では、「警察改革要綱」に盛り込まれた全ての施策が実行されており、そのほとんどにおいて、制度や運用が定着化したと認められる一方で、平成21年には、平成15年度から平成20年度の6会計年度における不適正経理が発覚し、加えて、職員の逮捕事案に及ぶ非違事案の発生は、未だに後を絶たない状況にある。  また、大量退職・大量採用による世代交代が急激に進み、本県警察職員の約4割が「警察改革要綱」策定後の平成13年以降に採用された職員で構成されるという実状からも、警察改革の精神が希薄となりつつあることが懸念される。  そこで、各所属長を始めとする幹部職員はもとより、全ての警察職員、更には今後採用される警察職員にあっても、警察改革の原点を忘れることなく、その精神を引き継ぎ、徹底した教養を行うことで、警察改革の定着化・深化を図っていくこととする。 2 治安水準の更なる向上  「警察改革」は目的ではない。  警察の責務は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持であり、「警察改革」は、警察がこれらの責務を全うすべく活動していくための手段の一つである。  神奈川県警察では、警察改革の10年間の推進状況についての検証結果を踏まえ、現場主義を徹底するとともに、官民一体となった取組みを展開することで、新たな治安情勢に的確に対応し、治安水準の更なる向上を図り、もって、安全で安心して暮らせる地域社会の実現を目指して、全力を挙げて取り組んでいく。