神奈川県川崎市内におけるストーカー事案等に関する警察の対応についての検証結果等報告書 令和7年9月 神奈川県警察 【目次】 はじめに 1ページ 第1 事案の経過 2ページ 第2 人身安全関連事案の対処体制・要領等 3ページ  1 署対処体制 3ページ  2 本部対処体制 3ページ  3 人身安全関連事案の対処要領 5ページ  (1) 人身安全関連事案(行方不明事案を除く。)の対処要領 5ページ  (2) 行方不明事案の対処要領 6ページ  4 本部及び臨港署における指導・教養の状況 6ページ 第3 行方不明事案認知前(令和6年6月13日~令和6年12月21日)の対応の検証結果 7ページ  1 事案1(6月13日~7月5日)の検証結果 7ページ  2 事案2(9月20日~11月22日)の検証結果 7ページ  (1) 拙速な捜査の終結や警告・禁止命令等の機会の逸失 7ページ  (2) 本部対処体制による継続的管理の不徹底及び事案2の結了判断における本部対処体制の関与の不存在 8ページ  3 事案3(12月9日~12月20日)の検証結果 9ページ    被害者からの電話等への不適切な初動対応 9ページ 第4 行方不明事案認知後(令和6年12月22日~令和7年4月30日)の対応の検証結果 11ページ  1 行方不明事案認知時の初動対応(12月22日~12月24日)の検証結果 11ページ  (1) 署対処体制の不十分な初動対応 11ページ  (2) 本部対処体制の不十分な初動対応 12ページ 2 初動対応後の行方不明者発見活動(令和6年12月24日~令和7年4月30日)の検証結果 12ページ  (1) 署対処体制の特異情報等の見逃しによる捜査の遅滞の継続 12ページ  (2) 本部対処体制による臨港署への指導の不徹底・主体的関与の欠如 14ページ  (3) 被害者の親族からの申出に対する本部広報県民課の不適切な対応 15ページ 第5 一連の不十分・不適切な対応等を招いた組織的・構造的な問題点 17ページ  1 署対処体制の形骸化・機能不全 17ページ  2 本部対処体制の形骸化・機能不全 18ページ  3 捜査の基本の不徹底 20ページ  4 苦情申出制度の不適切な運用 20ページ 第6 今後の対策 21ページ  1 対処体制の強化 21ページ  2 対処要領に関するマニュアルの整備等 21ページ  3 対処能力の向上 22ページ  4 捜査の基本の徹底 23ページ  5 苦情等への対応の改善 23ページ おわりに 24ページ はじめに  神奈川県川崎臨港警察署(以下「臨港署」という。)では、ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号。以下「ストーカー規制法」という。)違反事件を捜査中、令和7年4月30日、女性の御遺体を発見し死体遺棄事件を認知した。同年5月3日、死体遺棄罪で被疑者を通常逮捕し、その後の捜査で、御遺体の女性がストーカー規制法違反事件の被害者であることを特定し、同年5月28日、同被疑者を同法違反で通常逮捕した。また、同年7月12日には、同被疑者を殺人罪で通常逮捕した。  神奈川県警察(以下「県警察」という。)では、令和6年6月以降、この女性やその親族から人身安全関連事案としての相談等を受けていたにもかかわらず、行方不明となった女性が、その後に御遺体として発見されるという重大な結果が発生したことを重く受け止め、神奈川県公安委員会(以下「県公委」という。)の指導の下、本年5月9日、警務部長を長とする検証チームを立ち上げ、令和6年6月13日に相談等を受けてから、令和7年4月30日に御遺体が発見されるまでの県警察の一連の対応に関する検証を開始した。  検証においては、臨港署、神奈川県警察本部生活安全部人身安全対策課(以下「本部人身安全対策課」という。)、神奈川県警察本部刑事部捜査第一課(以下「本部捜査第一課」という。)等の関係所属の職員や警察本部の幹部に対する聴取や各種メモを含む本事案の対応の過程で作成された書類、幹部に対する報告文書等関係資料の精査を行った。その上で、県警察の一連の対応状況について、令和6年12月22日に行方不明事案を認知する前までの対応と行方不明事案を認知した後の対応の2つの期間に分けた上で、それぞれについて事実関係を明らかにするとともに、その事実関係に基づき、人身安全関連事案の対処に関する警察庁の通達等を踏まえた対応が行われていたのかという観点から評価を行い、その背景に在る問題点を抽出した。  本報告書は、本事案に関する検証結果と、その結果を踏まえた今後の対策について取りまとめたものである。 第1 事案の経過  本事案の人身安全関連事案としての対応状況の経過の要旨は以下のとおりである。  なお、事案の経過に関し、関係職員に対する聴取や関係資料の精査等により確認された事実関係を別添1として、詳細な時系列を添付した。 【行方不明事案認知前(令和6年6月13日~令和6年12月21日)の対応】 (事案1(DV事案):6月13日~7月5日)  令和6年6月13日 女性から「交際者とけんかして服を破られた」旨の電話(※ 相談者の女性は、以下「被害者」といい、交際者の男性は、以下「被疑者」という。)  令和6年7月5日 交際解消の申立てにより事態が沈静化したとして事案1を結了 (事案2(DV、つきまとい等事案):9月20日~11月22日)  令和6年9月20日 被害者の父親から「被害者が被疑者から殴られた」旨の電話があり、被害者から被害届を受理  令和6年10月29日 被害者から「事実と異なる説明をした」と被害届取下げ  令和6年10月31日 被害者の姉から「自宅マンション(注釈 被害者は当時、被害者姉宅マンションに滞在していたもの。)に誰かが侵入した、おそらく被疑者」と110番通報  令和6年11月5日 被害者の姉から「被疑者が自宅マンションの駐輪場にいた」旨の電話  令和6年11月22日 両当事者の復縁・同居の申立て等により事態が沈静化したとして事案2を結了 (事案3(被害者からの電話等):12月9日~12月20日)  令和6年12月9日(注釈 被害者は当時、被疑者との同居を解消し、被害者祖母宅に滞在していたもの。)~20日           被害者から臨港署に対する9回の電話(うち少なくとも3回は被疑者によるつきまとい行為に関するもの)  令和6年12月16日 被害者が来署、自転車盗の被害届を受理 【行方不明事案認知後(令和6年12月22日~令和7年4月30日)の対応】  令和6年12月22日 被害者の親族から「被害者が滞在する祖母宅のガラスが割られている」「被害者と20日から連絡が取れない」と110番通報  令和6年12月23日 被害者の父親から行方不明者届を受理(翌24日に「特異行方不明者」と判定)  令和6年12月26日 被疑者から電話聴取した際、同月17日までの被害者へのつきまとい等を自認  令和7年4月30日 被疑者宅をストーカー規制法違反で捜索、御遺体発見 ※ 殺人等事件の捜査状況  令和7年5月3日 被疑者を死体遺棄罪で通常逮捕(同月23日に死体損壊・死体遺棄罪で起訴)  令和7年5月28日 被疑者をストーカー規制法違反で通常逮捕(6月18日に同法違反で起訴)  令和7年7月12日 被疑者を殺人罪で通常逮捕(8月1日に殺人罪で起訴)  第2 人身安全関連事案の対処体制・要領等  「人身安全関連事案への対処体制等について(通達)」(令和6年5月15日付け警察庁丙人少発第32号ほか。以下「警察庁通達」という。)においては、人身安全関連事案(注釈 人身の安全を早急に確保する必要の認められる事案であり、ストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、行方不明事案、児童虐待事案等が該当する。)は、認知した段階では被害者やその親族等に危害が加えられる危険性やその切迫性を正確に把握することが困難である一方、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが極めて高いことから、認知の段階から事案の終結に至るまで継続的に、生活安全部門と刑事部門が連携し、警察本部が確実に関与するとともに、関係機関と緊密な連携を図りつつ、被害者やその親族等の安全の確保を最優先に対処することが肝要であるとされ、警察署及び警察本部において、生活安全部門と刑事部門を総合した編成による対処体制を確立し、対処要領に基づく対処を行うこととされている。 警察庁通達を踏まえ、県警察では「人身安全関連事案への対処要領について(通達)」(令和6年9月19日付け神人安発第83号。以下「県通達A」という。)を定め、警察署及び警察本部において、生活安全部門と刑事部門を総合した編成による対処体制を確立し、対処要領に基づく対処を行うこととされている。 1 署対処体制  県通達Aに基づき、警察署では、署対処体制として、署長の下に、統括責任者を副署長とするなどの体制を確立することとされている。  臨港署の署対処体制は、令和7年4月1日現在、以下の26名体制である(注釈 県通達Aに基づき、体制表を作成し、本部人身安全対策課に報告することとされている。)。 ○ 統括責任者1名(副署長) ○ 対処責任者2名(生活安全課長、刑事課長) ○ 対処副責任者2名(防犯担当警部補、強行犯事件担当警部補) ○ 対処要員21名(生活安全課10名、刑事課4名、地域課4名、警務課3名) なお、県通達Aに基づき、生活安全担当次長、刑事担当次長又は刑事担当次長兼生活安全担当次長(以下単に「次長」という。)が配置されている署にあっては次長を統括副責任者とすることとされているが、臨港署では次長が配置されていないため、統括副責任者はいない。 2 本部対処体制 (現行の体制)  警察庁通達に基づき編成される本部対処体制は、警察署からの報告の一元的な窓口となって事案を認知した後、事案の終結に至るまで継続的に、加害者の事件検挙、行政措置、被害者の保護措置等に関して、警察署への指導・助言・支援を一元的に行うことを任務とするものである。  県警察では、本部人身安全対策課が本部対処体制を担うこととされ、令和7年4月1日現在、生活安全部理事官兼人身安全対策課長兼刑事部理事官(以下「人身安全対策課長」という。)以下97名体制である。  生活安全部門と刑事部門を総合した編成という点では、 ○ 人身安全対策課長、人身安全対策課管理官(以下「管理官」という。)以下48名が刑事部と兼務 ○ 本部人身安全対策課に刑事部門出身の管理官以下10名を配置 の2点の人事措置により、本部人身安全対策課において、生活安全部門と刑事部門を総合した編成が確保されていると整理している。  しかし、県警察では、本部対処体制の編成・役割・任務等について、明確に規定した通達等はなく、本部捜査第一課が本部対処体制に含まれるかどうかは必ずしも明確ではなかった。  また、本部捜査第一課との連携・情報共有についても、明確に規定した通達等はなく、実務上、刑事部門出身で刑事部と兼務する管理官が、事案の内容に応じて(注釈 例えば、略取誘拐や逮捕監禁等が疑われる特異行方不明事案、傷害等の粗暴犯や押し掛けによる住居侵入事案等、迅速な事件検挙等を要すると認められる事案が想定されている。)、本部捜査第一課との連携・情報共有を行うこととされていた。 (本部長への報告)  人身安全関連事案のうち、社会的反響が大きい又は特に重要と認められるものについては、人身安全対策課長、生活安全部長を経て、警察本部長(以下「本部長」という。)に報告することとされている(注釈 神奈川県警察処務規程(昭和44年神奈川県警察本部訓令第3号。以下「処務規程」という。)第63条及び第65条)。  しかしながら、本部長への報告を行うべき事案の類型が抽象的に定められているため、事案の社会的反響の大きさや重要性に係る判断は、人身安全対策課長や生活安全部長の経験則や感覚に委ねられる属人的、不安定な仕組みとなっていた。  また、行方不明事案については、本部長への報告を行うべき事案が定められていたものの、類型の整理が分かりにくいものとなっていた(注釈 別添2の4ページ参照)。  実際、本事案においては、御遺体が発見された日の翌日である令和7年5月1日まで本部長に報告されなかった。その要因の一つとして、こうした本部長への報告に係る仕組みの問題があったと考えられる。 本事案における署対処体制と本部対処体制を図示すると、次の図のとおりである。   【図:署対処体制・本部対処体制】  (省略) 3 人身安全関連事案の対処要領  人身安全関連事案の対処要領について、本事案に関連するものは以下のとおりである。  なお、対処要領に関し、別添2として、その概要を添付した(注釈 警察本部において、対処要領に関するマニュアル等は整備されていなかった。)。 (1) 人身安全関連事案(行方不明事案を除く。)の対処要領  人身安全関連事案(行方不明事案を除く。)については、県通達A、「人身安全関連事案への対処に係る留意事項について(通達)」(令和6年9月19日付け神人安発第84号。以下「県通達B」という。)及び「恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対処の徹底について(通達)」(令和6年9月19日付け神人安発第85号。以下「県通達C」という。)に基づき定められた対処要領に沿って、対処することとされている。 (2) 行方不明事案の対処要領  行方不明事案については、「神奈川県警察行方不明者発見活動実施要綱」(平成23年例規第3号/神生総発第79号。以下「行方不明者発見活動実施要綱」という。)に基づき対処することとされている。 4 本部及び臨港署における指導・教養の状況  県通達Cに基づき、全ての職員に対し、対処体制・要領等に関する指導・教養を徹底することとされているが、以下のとおり十分とはいえないものであった。 (本部による指導・教養)  本部長、生活安全部長及び刑事部長は、令和6年4月及び10月の警察署長会議をはじめとする各種会議において、人身安全関連事案への的確な対処について指示した(注釈 令和6年5月の生活安全課長会議では本部長及び生活安全部長が、同月及び11月の刑事課長会議では本部長及び刑事部長が、人身安全関連事案の的確な対処について指示した。)。また、本部人身安全対策課は、年1回、警察署の生活安全課員を対象とする人身安全関連事案研修会を開催しており、臨港署生活安全課員も出席した。  また、本部人身安全対策課は、毎年1回、各警察署に対する巡回指導を実施しており、令和6年中は10月31日に臨港署に対する巡回指導を実施した。当該巡回指導は、県通達Aの趣旨や当時の県通達Aからの変更点等の指導といった表層的なものにとどまり、マニュアル等を示しながら具体的な対処要領のポイントや留意点等を指導するといった実質的・実効的な指導・教養を十分に行っていたとは認められなかった。 (臨港署における指導・教養) 臨港署長や副署長は、警察署長会議や研修において自身が本部長、生活安全部長、人身安全対策課長等から指示を受けた人身安全関連事案への対処に関する内容を各課長に回覧していたが、地域課員その他の署員に対して、人身安全関連事案の重要性や対処要領等に関する十分な指導・教養を行っていたとは認められなかった。また、臨港署の生活安全課長は、生活安全課員に対して、人身安全関連事案に関する教養資料を回覧していたが、地域課員その他の署員に対して、人身安全関連事案の重要性や対処要領等に関する十分な指導・教養を行っていたとは認められなかった。  第3 行方不明事案認知前(令和6年6月13日~令和6年12月21日)の対応の検証結果 1 事案1(6月13日~7月5日)の検証結果   本部対処体制たる本部人身安全対策課は、初動対応の段階では、当時の県通達Aに基づく報告を臨港署から受け、一定の指導・助言を実施した。   また、臨港署が、被害者及び被疑者の双方に連絡しトラブルが生じていないことを確認し、被害者の父親等を交えた話し合いにより交際を解消した旨の申立てがあったことを踏まえ、危険性・切迫性が低下したとして署長決裁を受けて事案1を結了した判断自体には明らかな問題点は認められなかった。 2 事案2(9月20日~11月22日)の検証結果 (1) 拙速な捜査の終結や警告・禁止命令等の機会の逸失  ア 9月20日の電話による通報を受けた対応  (被害届取下げに至った事情等の事後的な掘り下げ等の不足)   9月20日に被害者から暴行等の被害届の提出を受けて以降、臨港署は、当初は強制捜査の実施に向けた捜査を進めていたが、犯行時の防犯カメラ映像等の客観証拠がないこと、被害者の供述と被疑者の供述が整合しないこと、被害者の供述の裏付けが取れなかったことなどから、慎重に捜査を尽くすため、任意捜査を継続することとした。その後、約40日後の10月29日に被害届の取下げを受けたことにより、事実上、暴行等の捜査は終結したが、その間、事件の送致に向けて、被害者、被害者親族及び被疑者親族からの事情聴取、被疑者の取調べ、被疑者の携帯電話のデータの確認、防犯カメラ映像の確認等の所要の捜査を継続しており、明らかな問題点は認められなかった。   また、被害届の取下げについては、署員は被害者と面接して取下げを翻意するよう説得に努めるとともに、被害届の取下げに際し、被疑者及び被害者に必要な指導を行っている。しかしながら、被害届の取下げの意思が変遷する可能性や、下記イ及びウにおいて短期間のうちにトラブルが継続している状況を踏まえれば、日を置いてから、被害者から、取下げに至った事情等を掘り下げて聴取するなど、取下げについてより慎重に扱うべきであったと認められる。  イ 10月31日の110番通報を受けた対応  (拙速な捜査の終結)   10月31日の被疑者が被害者姉宅マンションに侵入した旨の通報に対し、臨港署は、一定の捜査を行い、同マンション敷地内への侵入は確認したものの、被害者の供述する侵入経路からの同マンション室内への侵入形跡は認められず、室内への具体的な侵入の有無やその方法については不明のままであった。   他方で、被害者、被疑者及び被害者の父親の三者による話し合いにより交際解消が合意されたこともあり、事態は沈静化したと判断し、その日以降、本事案に係る捜査を行わなかった。   本事案が暴行等の被害届の取下げ(10月29日)の2日後であることを踏まえれば、同マンション室内への侵入に関し、インターホンの録画記録の確認や被疑者・被害者の供述の整合しない点を追及するための事情聴取の継続等、必要な捜査を継続して慎重に事件性の有無を見極めるべきであった。   報告を受けた署長や副署長(以下「署長等」という。)は、本来であれば、事案の全体像を俯瞰的に掌握した上で、更なる捜査を行うよう指示すべきところ、単に事案を継続的に管理すべきという抽象的な指示を行うにとどまり、署長等による指揮が不十分であった。  ウ 11月5日の電話による通報を受けた対応  (警告・禁止命令等の機会の逸失)   11月5日の被疑者が被害者姉宅マンションの駐輪場にいたとの通報に対し、臨港署は、確認の結果、被疑者が被害者につきまとっていたことを自認したため、口頭指導するとともに、より強力な措置であるストーカー規制法に基づく警告・禁止命令等の措置の検討を開始した。   しかしながら、被害者の意向確認や手続を速やかに行えなかった上、11月10日から同月19日まで被害者が一時所在不明となる事案(注釈 11月22日に、被害者は同月10日から被疑者と復縁・同居していた旨、申し立てた。)が発生したため、警告・禁止命令等の措置を講じる機会を逸した。 (2) 本部対処体制による継続的管理の不徹底及び事案②の結了判断における本部対処体制の関与の不存在 (本部対処体制による継続的管理の不徹底)  本部対処体制たる本部人身安全対策課は、初動対応の段階では、臨港署からの報告を受け、一定の指導・助言を実施したものの、初動対応後の対応を能動的・継続的に確認することはなく、事案2の継続的管理は十分になされていなかった。 (事案2の結了判断における本部対処体制の関与の不存在)  臨港署は、11月22日、これまで交際の解消と復縁の申立てが繰り返しなされるなど、短期間で事情が二転三転した経緯はあったものの、被疑者及び被害者からの復縁の申立てがあったことや被害者の父親から特段の対応の要望がなかったことを踏まえ、被害者及び被疑者に関するトラブル事案は一旦収束・解決したと評価・判断し、署長決裁を受けて、事案2を結了した。  この点、継続的に対処している事案については、事案結了の適否の判断が難しいことから、県通達Aでは、本部対処体制の指導・助言を受け、多角的にチェックすることとされているところ、事案2の結了判断に際しては、本部対処体制の指導・助言を受けず、臨港署のみでその適否を判断した。これにより、本来であれば、結了とせずに事案の管理を継続すべき、又は、結了としたとしても新たな相談等があれば躊躇なく組織的な対処を再開すべきといった指導・助言を受けることができた可能性があったが、そうした機会が得られなかった。  このため、署長以下署内に、被害者及び被疑者に関するトラブル事案は一旦収束・解決したという先入観が形成され、事案3において、被害者からの電話による相談を受けて組織的な初動対応がなされなかったという不適切な対応に繋がったと考えられる。  3 事案3(12月9日~12月20日)の検証結果  被害者からの電話(注釈 12月9日から同月20日まで、被害者から臨港署に対し、計9回の電話があった。うち12月9日の2回の電話、同月12日の1回の電話については、いずれも被疑者によるつきまとい行為について相談する電話であり、同月10日の1回の電話については、被害者による被疑者への接触について相談する電話であった。いずれも当直中の警察官が対応した。なお、これらの電話については、令和7年4月3日、被害者の親族らが臨港署に対して、被害者が臨港署に9回電話を架けた通話履歴を提示したことによって判明したものである。)等への不適切な初動対応 (人身安全関連事案としての速報の懈怠)  12月9日及び12日の被害者からの電話に対応した当直中の警察官2名は、危険性・切迫性を過小評価し、新たに人身安全関連事案として認知するには至らず、署長及び本部人身安全対策課への速報を行わなかった。  なお、12月9日に応対した警察官は、翌朝、対処副責任者である上司に対し、被害者からの電話について報告したものの、その際も当該上司より人身安全関連事案として認知することについて特段の指示はなかった。 (記録化の懈怠)  12月9日、10日及び12日の被害者からの電話に対応した当直中の警察官3名は、被害者からの電話の内容について、また、被害者からの通報に基づく対応について記録化(注釈 人身安全関連事案については、県通達A及びBに基づき記録化することとされており、かつ、警察相談に該当するものについては、警察相談受理票により記録し(神奈川県警察相談取扱規程(平成13年神奈川県警察本部訓令第14号。以下「相談取扱規程」という。)第16条第1項)、警察署通報事案(加入電話等を通じ、警察署通信室に通報される事案で警察措置を要するもの)の措置結果については、警察署通報事案受理票により記録することとされている(通信指令業務運営要領(平成元年例規第41号。以下「運営要領」という。)第9条第4項)。)を行わなかった。 (被害者との面接による積極的な事実確認等の懈怠)  12月9日及び12日の被害者からの電話に対応した当直中の警察官2名は、電話対応にとどまり、被害者が所在する場所に赴くなどして被害者と面接して事情聴取するなど、積極的な事実確認を行うほか(注釈 県通達Bでは、被害者の中には、事態の危険性・切迫性を正しく認識していなかったり、加害者に対する警戒心が十分でなかったりする者がいることから、より一層の危機意識の醸成を図ることとされている。)、被疑者の事情聴取や口頭指導等を行うべきだった(注釈 県通達Cでは、被害者やその親族等に危害が及ぶおそれがある事案については、速やかに加害者を呼び出し、必要に応じて担当者が赴くなどして、事情聴取や指導・警告を行うこととされている。)が、これらを行わなかった。 (自転車盗の届出への緩慢な対応)  12月16日及び19日、被害者から自転車盗の被害届の提出を受けた地域警察官は、被害者が、元交際者である被疑者が犯人であり、捕まえてほしい旨を申し立てていたにもかかわらず、人身安全関連事案に関連する事案であるとの認識に至らず、被疑者の人定事項を聴取しなかった上、生活安全課には情報共有しなかった。  また、自転車盗の被害届は、署長等まで報告がなされたが、署長は、被害者による届出とは認識したものの(注釈 被害届には「被疑者が盗んだと思われる」旨の記載はなかった。)、人身安全関連事案に関連する事案と認識するには至らず、生活安全課に共有するよう指示するなどの特段の指揮は行わなかった。 (まとめ)  事案3の対処においては、つきまとい行為というストーカー規制法違反等が疑われる被疑者の行為に関する被害者からの度重なる電話相談等に対し、担当した警察官全員が危険性・切迫性を過小評価し、人身安全関連事案として認知することすらできず、速報や記録化等の基本的な対処を欠いた結果、それらも含め本来なされるべき人身安全関連事案としての組織的な初動対応がなされなかったという不適切な対応が認められた。その要因の一つとして、事案2が結了となっており、臨港署全体に被害者及び被疑者に関するトラブル事案は一旦収束・解決したという先入観が形成されていたことが考えられる。  仮に電話相談等に対し、ストーカー事案と認知して被疑者や被害者に接触を図るなどの組織的な初動対応がなされていれば、警告・禁止命令等の措置や被害者の安全を確保する措置を講じることができた可能性があった。 第4 行方不明事案認知後(令和6年12月22日~令和7年4月30日)の対応の検証結果 1 行方不明事案認知時の初動対応(注釈 12月22日に行方不明事案を認知し、同月23日に行方不明者届を受理し、同月24日に特異行方不明者と判定するまでを「行方不明事案認知時の初動対応」とすることとした。)(12月22日~12月24日)の検証結果 (1) 署対処体制の不十分な初動対応 (被害者祖母宅の窓ガラス損壊事案の捜査懈怠・報告の不徹底)  12月22日、110番通報により被害者祖母宅に臨場した臨港署員は、同所における窓ガラス損壊事案と被害者の行方不明事案を認知したが、祖母からの申立てを踏まえ、被害者の所在確認を行ったものの、窓ガラス損壊に関し、当然に行うべき鑑識活動としての写真撮影や指紋採取等を行わなかった。  また、当該署員は、目視による現場確認のみで、「窓が内側から外側に割れている可能性がある」「(被害者は)自分でいなくなった可能性がある」などと、事件性が低いと拙速に判断し、祖母にもその旨不適切な説明をするなど、現場での初動捜査は、捜査の基本を欠いた不十分・不適切なものであった。  現場に臨場した署員から報告を受けた当直主任は、写真等により具体的に現場の状況の確認を行うことなく、当該署員の報告を追認し、刑事課長及び署長等に報告しなかった。そのため、署長等の指揮により、事件性を見据えて捜査を開始するなど、対応を是正する機会が失われた。また、当直主任らは、本部人身安全対策課や本部捜査第一課に対しても、上記初動捜査に基づく不十分な報告を行った。 (行方不明事案に対する不十分な初動対応)  被害者の行方不明事案についても、初動対応を行った臨港署員は、過去の事案(注釈 11月10日に被害者が一時的に行方不明となったが、同月22日に、被害者が臨港署員に対し、「実は10日から被疑者と一緒に居て、14日に警察官が被疑者宅に確認に来た際は、2階の押し入れの中に隠れていた」旨を申し立てた事案。)と同様に、被害者が被疑者宅に居る可能性があると考え、12月22日及び23日の2回にわたって被疑者宅に赴き、被疑者同意の下で被疑者宅を確認したものの、任意の発見活動には限界があったため、被疑者宅の一部の確認にとどまった。結果として、被害者の発見に至らなかったが、その時点で、被害者の行方不明事案に係る危険性・切迫性の評価を見直さず、その後、12月23日、被害者の父親が臨港署において行方不明者届を提出する際、被疑者が被害者に対して「許さない」旨のメッセージ(注釈 「あいつと付き合うなんて、絶対に許さない」旨のメッセージ)を送っていたこと等を説明したものの、当該説明内容が署長等に十分に報告されなかったため、行方不明者届受理の報告を受けた署長等の幹部は、被害者が祖母に送信した買い物に行く旨のメッセージ等を踏まえ、自分の意思でいなくなった可能性が高いことを勘案し、「特異行方不明者」とは判定しなかった。  翌24日に本部人身安全対策課の指導を受けて、「特異行方不明者(事故遭遇)」と判定したものの、行方不明者が犯罪により、その生命又は身体に危険が生じているおそれがあるとの認識に至らず、一般的な発見活動からレベルを上げて、積極的な捜査・発見活動を行う態勢が取られることはなかった。 (2) 本部対処体制の不十分な初動対応 (本部対処体制による臨港署への指導の不徹底及び本部捜査第一課との連携不全)  12月22日の行方不明事案等の認知時、本部人身安全対策課員は、積極的に事実確認することなく、その報告を追認し、臨港署に対して特段の指導を行わず、人身安全対策課長に報告しなかった。  12月23日には、臨港署から、行方不明者届を受理する旨の報告が本部人身安全対策課になされ、12月24日には、本部人身安全対策課から臨港署に対し、「特異行方不明者」と判定するよう指導・助言は行ったが、当該指導・助言を踏まえて臨港署がどのような対応を行ったのかを能動的・継続的に確認することはなかった。また、臨港署が「特異行方不明者」に判定したものの、その事実に関する報告は人身安全対策課長までにとどまり、本来は、専決権限を有する生活安全部長まで報告すべきところ(注釈 神奈川県警察事務決裁規程(昭和53年神奈川県警察本部訓令第6号。以下「決裁規程」という。)第11条に基づき、特異行方不明者の手配及び保護に関する事務は生活安全部長が専決(本部長の権限に属する事務を、常時本部長に代わって決裁することをいう。以下同じ。)することとされている。)、報告がなされなかった。  12月22日から同月24日までの間、行方不明事案等について、本部人身安全対策課から本部捜査第一課への情報共有や、本部捜査第一課から本部人身安全対策課への問合せは行われておらず、両課が連携した形跡は認められなかった。 (本部捜査第一課による臨港署への指導の不徹底)  12月22日の窓ガラス損壊事案等の認知時、本部捜査第一課が臨港署刑事課から受けた状況報告は不十分なものであった。しかしながら、報告を受けた課員は積極的に臨港署刑事課に事実確認することなく、その報告を追認し、特段の指導・助言を行わず、報告を受けた課員は、刑事部理事官兼捜査第一課長(以下「捜査第一課長」という。)に報告しなかった。 2 初動対応後の行方不明者発見活動(注釈 12月24日に特異行方不明者と判定して以降、令和7年4月30日に御遺体が発見されるまでを「初動対応後の行方不明者発見活動」とすることとした。)(12月24日~令和7年4月30日)の検証結果 (1) 署対処体制の特異情報等の見逃しによる捜査の遅滞の継続 (特異情報を踏まえた再考の機会を逸したことによる捜査の遅滞の継続)  臨港署は、「特異行方不明者」と判定して以降、行方不明者が犯罪により、その生命又は身体に危険が生じているおそれをうかがわせる、少なくとも次に掲げる事実・情報を把握したにもかかわらず、署対処体制として、危険性・切迫性の評価や事件性の判断を見直し、対処方針を修正して、一般的な発見活動からレベルを上げて、そのようなおそれを念頭に置いた捜査を開始する態勢に切り替える機会を逸し続け、その間、一般的な発見活動を継続・強化(注釈 行方不明者届受理後、各種照会、防犯カメラ映像の確認等を実施していたが、下記記載の特異情報を把握して以降、被疑者宅の裏の空き家を確認したほか、被害者と交友関係があると思われる者を積極的に探索・発見して聴取するなどした。)したにとどまった。  その要因には、これまでの事案(注釈 被害者姉宅マンション敷地侵入事案(令和6年10月31日認知)、被害者祖母宅の窓ガラス損壊事案(令和6年12月22日認知))の初動捜査の不徹底に加え、ストーカー規制法違反等の捜査に係る知識・理解不足(注釈 被害者不在の状況でどのように被疑者のストーカー行為を立証するのかについての知識・理解の不足)もあったとみられる。  以下の事実・情報(以下「特異情報」という。)を踏まえれば、本来であれば、12月26日には、被疑者のつきまとい行為に対する一定の確認がとれたとして、行方不明者が犯罪により、その生命又は身体に危険が生じているおそれを認識し、被疑者に対するストーカー規制法違反等での強制捜査を見据えた捜査を開始すべきであった。  1 12月24日までに、被疑者が、被害者の自宅周辺等をうろついていたこと、被害者に対して「許さない」旨のメッセージを送信したことなどについて被害者の親族から情報提供があり(注釈 臨港署に対し、12月23日に被害者の父親から、被疑者が以前から被害者の自宅周辺をうろついていること・被疑者が被害者に対し「許さない」旨のメッセージを送信していたことについて、12月24日に被害者の親族から、12月16日及び17日に被疑者が被害者祖母宅の近くにいた点について、注意をしたこと・12月20日に被疑者が被害者の勤務先周辺をうろついていたことについて情報提供があった。)、同月26日にこれらの事実の一部(注釈 12月12日から同月17日までの間に被害者の自宅周辺等をうろついたことや被害者に対し「許さない」旨のメッセージを送信したことは認めたが、同月17日に被害者の親族に注意されて以降はうろついていないと申し立てた。)を被疑者が自認したこと  2 被害者の携帯電話の電源が切断されたままの状態が継続したこと  3 令和7年1月7日、被疑者の自殺企図事案を認知したこと  4 1月10日、被害者の友人から、他人が被害者になりすましてメッセージを送信しているのではないかとの情報提供がなされたこと  5 1月10日、被疑者がSNS履歴等のデータを消去していることが判明したこと  6 1月14日、被疑者の親族から、被疑者の不審な言動や被害者殺害の可能性について情報提供がなされたこと  7 1月17日、被害者が参加意向を示していた1月13日の成人式後の同窓会に欠席した事実が判明したこと  8 1月21日、被害者の父親から、被害者の友人に被害者から「12月20日に被疑者がうろついているのを見つけた」旨のメールが届いたことなどについて情報提供がなされたこと  9 2月19日、被害者の父親から、12月20日に被害者が被疑者を目撃した状況を撮影した写真を被害者の親族から入手した旨の情報提供がなされ、関係資料の提示を受けたこと  また、特異情報について、臨港署生活安全課から刑事課に一定の情報共有はなされていたものの、署対処体制下における両課の情報の集約・共有や共同・連携した捜査方針の検討が不十分であり、行方不明者が犯罪により、その生命又は身体に危険が生じているおそれがあることを念頭に置いた捜査の開始には至らなかった。  なお、署長等の幹部は、特異情報の報告を受けていたものの、積極的な事実確認や指摘を行わず、本来ならば、生活安全課と刑事課が共同・連携して対処するよう指示すべきところ、こうした指示を行わず、指揮が不十分であった。 (被害者の親族からの要望等を踏まえた再考の機会を逸したことによる捜査の遅滞の継続)  臨港署は、特異情報に加え、被害者の親族から、1月上旬から中旬にかけて、少なくとも以下の要望や申出が寄せられたにもかかわらず、危険性・切迫性の評価や事件性の判断を見直して、対処方針を修正する機会を逸し続けた。  1 1月7日、臨港署に対し、被害者の祖母から、被害者祖母宅の窓ガラス損壊事案(令和6年12月22日認知)に係る被害届提出の要望がなされたこと  2 1月9日、神奈川県警察本部総務部広報県民課(以下「本部広報県民課」という。)に対し、被害者の父親から、行方不明事案について「臨港署が被害者の行方不明について動いてくれない。被害者は殺されているかもしれず、臨港署に早く動いてほしい。」旨の申出がなされ、当該申出は本部人身安全対策課、本部捜査第一課及び臨港署に回付されたこと  3 1月9日、臨港署に対し、被害者の父親から、被害者姉宅マンション敷地への侵入事案(令和6年10月31日認知)に係る被害届提出の要望がなされたこと  4 1月11日、警視庁に対し、被害者の父親から、行方不明事案について「被疑者に被害者が連れ去られたのではないかと思い、地元署に何度も相談したが、生活安全課に回された。何か良いアドバイスはないか。」旨の申出がなされ、当該申出は警視庁本部から神奈川県警察本部に連絡(注釈 警視庁生活安全部人身安全対策課から本部人身安全対策課に、警視庁刑事部捜査第一課から本部捜査第一課に連絡がなされた。)がなされ、本部を通じて臨港署に連絡がなされたこと  5 1月15日、本部広報県民課に対し、被害者の父親から、行方不明事案について「臨港署の対応に不満がある。事件性がないと言って対応してくれない。生活安全課ではなく刑事課に動いてほしい。」旨の申出がなされ、当該申出は本部人身安全対策課、本部捜査第一課及び臨港署に回付されたこと  なお、署長等の幹部は、臨港署に伝えられた上記の要望等の報告を受けていたものの、積極的な事実確認や指摘を行わず、指揮が不十分であった。 (2) 本部対処体制による臨港署への指導の不徹底・主体的関与の欠如 (本部対処体制による臨港署への指導の不徹底・主体的関与の欠如及び本部捜査第一課との連携不全)  本部人身安全対策課は、12月24日以降も、臨港署から特異情報等の一部の報告を受けていたほか、本部広報県民課からの申出の回付や警視庁からの情報提供によって、こうした特異情報等の一部を把握し、被害者の父親等による臨港署の対応への不満を認識していたにもかかわらず、臨港署に対して積極的・能動的な事実確認を行うことなく、臨港署からの報告を追認し、臨港署生活安全課に対するストーカー規制法違反等の積極的な捜査についての指導や、必要性を見極めた上で、現場支援要員を派遣するなどの支援を行わなかった。  また、12月24日以降、行方不明事案等について、本部人身安全対策課から本部捜査第一課への情報共有や、本部捜査第一課から本部人身安全対策課への問合せは行われなかった。  なお、警視庁からの情報提供は生活安全部長にも報告がなされたが、特に指示はなされなかった。 (本部捜査第一課による臨港署への指導の不徹底・主体的関与の欠如)  本部捜査第一課は、本部広報県民課からの申出の回付や警視庁からの情報提供によって、特異情報等の一部を把握し、被害者の行方不明事案について、被害者の父親等が事件捜査として対応することを強く求めていたことを認識していたにもかかわらず、臨港署刑事課に対して積極的・能動的な事実確認を行うことなく、臨港署の報告を追認し、同署刑事課に対し、積極的な捜査について指導しなかった。  また、本部捜査第一課として、当該行方不明事案に対する当事者意識が欠如しており、行方不明者が犯罪により、その生命又は身体に危険が生じているおそれがあることを視野に入れた捜査員の派遣等の主体的・積極的な対応を行わなかった。  なお、本部広報県民課からの申出の回付や警視庁からの情報提供については、いずれも、捜査第一課長や刑事部長に報告がなされなかった。 (3) 被害者の親族からの申出に対する本部広報県民課の不適切な対応  被害者の親族から本部広報県民課に対し、1月9日に「臨港署が動いてくれない」旨、15日に「臨港署の対応に不満がある。生活安全課ではなく刑事課に動いてほしい」旨の計2件の申出が行われた。  これらの申出につき、本部広報県民課は、「苦情」の定義である「警察職員が職務執行において違法、不当な行為をしたり、なすべきことをしなかったことにより何らかの不利益を受けたとして個別具体的にその是正を求める不服」等に該当するとして、警察宛ての「苦情」として受理し、本部長に対する受理の報告及び県公委に対する結果の報告を行うべきであった(注釈 神奈川県警察職員の職務執行についての苦情取扱要綱(平成13年例規第42号))。  しかしながら、本部広報県民課においては、苦情に関する「なすべきことをしなかった」との点の該当性判断に際し、「何らかの警察活動を行っていればこれに該当しない」と解釈し、そのような場合には「苦情」には当たらず、「要望・意見等」とする運用としていた。  このため、当該2件の申出について、本部広報県民課は、臨港署が一定の行方不明者発見活動を講じていたとして、「苦情」に該当しないと判断し、「要望・意見等」として受理した。その結果、「苦情」として受理されていれば、本来行われたはずの、本部長への受理の報告も行われず、また県公委に対する結果の報告も行われなかった。  また、「要望・意見等」として受理したとしても、本部広報県民課が当該申出を「特異重要な警察相談その他社会的反響が大きいと認められる警察相談(以下「特異重要なもの等」という。)」と判断すれば主管部長を経由して本部長に報告することとされていた(注釈 相談取扱規程)が、そのような判断には至らなかった。このため、当該2件の申出について、本部広報県民課から本部長に報告が行われなかった。 第5 一連の不十分・不適切な対応等を招いた組織的・構造的な問題点  前記第3及び第4の検証の結果、本事案における一連の対応に不十分・不適切な点が認められたが、その背景には、組織的・構造的な問題点として、人身安全関連事案の対処に係る署対処体制及び本部対処体制のそれぞれについて、体制が形骸化し、本来発揮すべき機能が発揮できなかったといった問題点があったと認められた。また、初動捜査を含めた捜査の基本が徹底されなかったほか、苦情申出制度が不適切に運用されていたという問題点が認められた。  以下では、これらの問題点について述べる。 1 署対処体制の形骸化・機能不全  以下の要因が複合的に作用した結果、署長をトップとし、生活安全課員及び刑事課員を中心とした挙署一体の署対処体制が形骸化し、人身安全関連事案に迅速かつ的確に対処するための本来の機能が発揮できなかったと考えられる。 (1) 署対処体制における対処要員の任務・役割に関する自覚・理解が不足していたこと  県通達Aに基づき、臨港署において、署対処体制の統括責任者や対処要員を定め、体制表を作成していたものの、対処要員の任務・役割に関する自覚・理解が不足し、指導・教養も十分に実施されていなかった(注釈 県通達Aでは、責任者や対処要員の役職・課、階級、氏名及び卓上の電話番号のみを記載した警察署人身安全関連事案対処体制表を作成し、本部人身安全対策課に報告することとされている。)。  このため、とりわけ生活安全課に所属する対処要員以外の対処要員には、そもそも自らが対処要員に指定されたことの自覚が希薄であった。 (2) 生活安全課と刑事課の情報共有の方法や連携の取り方が不明確であったこと  署においては、生活安全課員及び刑事課員を中心とした挙署一体の体制の確立が県通達Aで求められているが、署対処体制における生活安全課と刑事課との間の情報共有の方法や連携の取り方が不明確なため、両課員の感覚・判断に委ねられる属人的・不安定な体制となっていた。  実際、本事案では、特異情報等の一部について、生活安全課から刑事課に対して情報共有がなされていたものの、必要十分な情報が両課で共有されなかったことに加え、特異情報等を踏まえ、対処方針について両課で共同・連携して十分に検討を行うこともなかった。 (3) 夜間等の当直時間帯や署対処体制以外の署員が把握した関連情報の集約・共有に係る手続・要領が未整備であったこと  夜間等の当直時間帯に相談等を受理した場合や署対処体制の対処要員以外の署員が相談等を受理した場合においては、県通達Aに基づき、こうした相談等は署長及び人身安全対策課長に速報すべきこととされている。  しかしながら、そのような場合に必要な情報を署対処体制に集約・共有するための具体的手続が県通達Aでは定められておらず、また、具体的な対処要領を定めたマニュアル等も県警察では作成していなかったことから、臨港署では、全署員に対する指導・教養も十分に実施されていなかった。  このため、特に事案3において、当直員が相談等を把握しながら署長及び本部人身安全対策課に速報しなかったこと、地域警察官が被害者から自転車盗の被害届を受理した際に交際を巡るトラブルに関する情報を生活安全課に共有しなかったことに表れているように、署対処体制の対処要員以外の署員が把握した相談等が迅速・的確に署対処体制に集約・共有されず、迅速・的確な事案の認知や対処に間隙や不備が生じていたと認められる。 (4) 署長等の実質的な指揮が不十分であったこと  本事案の対処において、署長等が報告を受けた際に、事案を継続的に管理すべきといった抽象的な指示は行っていたものの、行政措置の検討や事件化を見据えた捜査に関し具体的に指示した状況は認められなかった。  特に、行方不明事案認知後において、署長等が、行方不明者が犯罪により、その生命又は身体に危険が生じているおそれがあることを念頭に置いた必要な捜査・発見活動を開始する態勢を取るよう指示した状況は認められなかった。  また、行方不明事案認知後において、生活安全課と刑事課の情報共有や連携が滞っていたが、こうした局面では、署長等が、俯瞰的な立場から両課に対し、積極的に指示を行い、挙署一体となった対処を主導すべきであったが、そのような指揮を執った状況は認められなかった。  署長等は、事態の全体像を俯瞰的に掌握した上で危険性・切迫性を適切に評価し、時には部下の評価や判断を是正するなどして、適切な対処方針を指揮すべきであるにもかかわらず、自ら積極的に状況を確認して対処上の問題点を把握し、対処方針の当否を検討することをしていなかったと認められ、署長等の実質的な指揮が不十分であった。 (5) 指導・教養等の不徹底に起因する緊張感の欠如  人身安全関連事案の重要性や対処要領等に関する指導・教養について、署長等は、関連資料を各課長に回覧させるにとどまり、署内の会議等において署員に対し積極的に指導・教養を行っていた状況は認められなかった。  このことは、特に事案3の対応や行方不明事案認知後の対応に表れていたように、そもそも署全体において、人身安全関連事案の対処に関する緊張感に欠け、相談等や特異情報等への感度が低かった要因の一つであると考えられる。 2 本部対処体制の形骸化・機能不全  以下の要因が複合的に作用した結果、本部対処体制が形骸化し、事案の認知から結了まで、署に対して積極的かつ継続的に指導・助言し、事態に応じて機動的・主体的・積極的に署の対処に関与するという本来の機能が発揮できなかったと考えられる。 (1) 任務・役割が不明確であり、本部対処体制の指導・助言機能に対する理解が不足していたこと  警察庁通達上は、本部対処体制が、署の対処方針を必要に応じて是正するなど積極的、機動的に署の対処に関与するため、署から適時適切に報告を受けるとともに、積極的かつ継続的に指導・助言を行うこととされている。  それにもかかわらず、行方不明事案認知までは、事案を認知した署から報告を受けた場合に指導・助言を行うにとどまり、当該指導・助言が署の対処にどのように反映されたのかなどを事後に確認することもほとんど行われず、本部人身安全対策課が、署に対して積極的かつ継続的に指導・助言することができていなかった。  行方不明事案認知後も同様に、特異情報や被害者からの要望等のほとんどを把握していたにもかかわらず、臨港署に能動的・積極的に事実確認することなく、犯罪被害を見据えた捜査・発見活動を行うよう積極的に指導・助言することができていなかった。  これは、そもそも県通達Aが主に署対処体制の任務・役割を規定するのみで、本部対処体制の任務・役割に関する規定が不十分・不明確であり、このため、本部人身安全対策課内において、本部対処体制の指導・助言機能に対する理解が不足していたことも要因の一つであると考えられる。 (2) 事案の結了判断の際の本部対処体制の関与が不十分であったこと  県通達A上は、事案結了の判断において、一定の要件(注釈 1 一定期間、危険事象の発生がなく、危険性・切迫性がないと認められる事案、2 危険性・切迫性が低くなっており、かつ、被害者やその親族等が継続的な対処を求めていない事案のいずれかに該当するもの)に該当するものは、本部人身安全対策課の指導・助言を受けた上で、結了の適否を判断することとされているが(注釈 県通達Aは令和6年9月19日に発出されたものであり、事案1当時の県通達Aにおいては、結了判断に係る本部人身安全対策課の関与につき特段の記載がなく、署長の判断のみで結了ができる仕組み・運用となっていたため、事案1については、署長のみの判断で結了したことに問題はない。)、当該要件に明らかに該当すると署長が判断した場合は、本部人身安全対策課の指導・助言を受けずに署長の判断のみで事案結了の判断を行うことができる運用となっていた。  こうした運用が常態化していたため、事案2においては、本部対処体制の指導・助言を受けることなく署長の判断のみで結了とされ、本部対処体制がより客観的・俯瞰的な視点から署長の判断の適否を検討することができず、署長の結了判断に際し、本部対処体制が是正等をする機会が失われた。 (3) 本部対処体制における生活安全部門と刑事部門を総合した編成が不十分・不明確であったこと  県警察では、本部人身安全対策課から本部捜査第一課への情報共有の方法やタイミング、両課の具体的な連携の取り方が、人身安全対策課長や管理官等の感覚・判断に委ねられる属人的・不安定な体制となっていた。実際、本事案では、本部人身安全対策課から本部捜査第一課に対して情報共有が一切なされず、そのため、連携して対応することもなかった。  また、本部対処体制に本部捜査第一課が編入されているかどうかが不明確であったため、本部捜査第一課員の人身安全関連事案に対する当事者意識が希薄であったとみられる。実際、本事案では、本部捜査第一課としても特異情報等の一部や被害者の父親等からの要望等を把握したにもかかわらず、同課として、署に対し積極的・能動的に事実確認したり、積極的な捜査を指導したりすることはなかった。 (4) 本部対処体制における生活安全部門と刑事部門を俯瞰する立場の者による指揮が存在しなかったこと  本部対処体制のトップである人身安全対策課長は、刑事部理事官を兼務していたものの、本事案においては、人身安全対策課長が本部捜査第一課に対して指示した形跡は認められなかった。  また、本部において、生活安全部門と刑事部門を俯瞰する立場で指揮することができるのは本部長であったが、本事案では、本部長への報告を行うべき事案の類型が抽象的に定められていたほか、分かりにくいといった問題もあり、被害者の御遺体発見まで本部長に報告がなされなかった。  その結果、本事案では、本部長が司令塔となって、両部門の連携や本部の主体的・積極的な関与を指揮する機会が存在しなかった。 3 捜査の基本の不徹底  臨港署においては、被害者祖母宅の窓ガラス損壊事案に際し、臨場した署員が、現場の状況判断を誤ったことなどにより、本来であれば当然に行われるべき鑑識活動等の初動捜査を行わず、関係者に対し拙速な判断に基づく不適切な説明を行った。また、臨場した署員から報告を受けた当直主任もこうした現場の誤った状況判断を追認し、不十分・不適切な対応を是正しなかった。こうした初動捜査の不徹底は、被害者姉宅マンション敷地侵入事案においても認められた。  署員らには、犯罪現場において鑑識活動を実施し必要な証拠保全等を行うといった初動捜査を含めた捜査の基本が徹底されていなかったものと認められ、こうした不十分・不適切な対応が、窓ガラス損壊事案等の真相解明を困難にし、上記1及び2とあいまって、その後の捜査が遅滞する一因となった点を重く捉える必要がある。 4 苦情申出制度の不適切な運用  本部広報県民課においては「苦情」の該当性について、警察庁の解釈運用基準と比して狭きに失した解釈を行うという不適切な運用が行われていた。このため、被害者の父親から寄せられた2件の申出について、本来行われるべきであった県公委及び本部長に対する報告がなされなかった。  また、本部広報県民課が「要望・意見等」として受理した後、特異重要なもの等として本部長に報告されることもなかった。  これらにより、本部長、さらには県公委に対し報告を行い、組織的に対応方策を検討し、必要な指示を受け、方向性を是正し得る機会が失われたことは事実であり、不十分な対応であったといえる。  第6 今後の対策  本事案の検証により、県警察における一連の対応に不適切な点が認められ、その背景にある組織的・構造的な問題点として、署対処体制及び本部対処体制の形骸化・機能不全等があったと認められた。  このような認識の下、警察庁通達を踏まえ、人身安全関連事案における被害者やその親族等の安全確保を最優先とした対処を徹底するため、以下の対策を進めていく必要がある。 1 対処体制の強化 (1) 本部対処体制の強化  ア 司令塔を担う参事官級ポストの設置及び本部長に必要な報告が確実になされる仕組みの構築    本部人身安全対策課と本部捜査第一課等の情報共有や連携に間隙を生じさせないようにするため、関係課を統括する司令塔の役割を担う参事官級ポストを設置する。    あわせて、ストーカー事案等関係者の行方不明事案であって、重大犯罪に巻き込まれている可能性を払拭できない事案等を類型化するなど、司令塔の下、確実に本部長報告がなされる仕組みを構築する。  イ 本部捜査第一課の役割の明確化及び同課における指導専従体制の構築    県の通達上、本部対処体制についての明確な規定がなく、本部捜査第一課員の人身安全関連事案に対する当事者意識も希薄であったことから、通達等で本部対処体制における本部捜査第一課の役割を明確にするとともに、同課に人身安全関連事案指導専従体制を構築する。  ウ 本部人身安全対策課における事案管理体制の構築    本部対処体制による事案の継続的な管理を徹底するため、本部人身安全対策課に事案の管理を専門とする係を創設する。 (2) 署対処体制の強化 県内全署の署対処体制を早急に点検し、署の規模に応じて人身安全関連事案に適切に対処できる体制を構築する(署対処体制における一元的な指揮を実効性のあるものとするため、統括副責任者として生活安全課と刑事課を統括する次長の配置対象となる警察署を拡大し、体制を強化する。)。 2 対処要領に関するマニュアルの整備等 (1) 本部対処体制と署対処体制が連携した継続的な事案管理の徹底  県通達上、本部対処体制による警察署への指導・助言・支援に関する任務が不明確であったことから、本部対処体制が署対処体制と連携し、事案の認知から結了に至るまで継続的に事案を管理する任務を明記するとともに、相談結了の判断を含め、適切に管理が行われるよう手続を明確化する。 (2) 本部・署対処体制内における情報共有等の連携要領の明確化  本事案を受けて、本年6月27日より、   ○ 逮捕事案   ○ 過去に人身安全関連事案として取り扱った当事者同士が再び人身安全関連事案の当事者として取り扱われた事案   ○ 相談者が被害申告等をすれば逮捕事案となるが、相談者の意向により事件化に至っていない事案   ○ ストーカー規制法等での事件化や禁止命令等、警告が可能な事案  については、本部人身安全対策課から本部捜査第一課へ情報共有を行う取組を試行的に開始したところ、今後、本部対処体制及び署対処体制において生活安全部門と刑事部門等の関係部門間における迅速的確な情報集約・共有が確実に行われるよう、定期的な会議の開催など、具体的な要領等を定める。 (3) 署対処体制における対処要員として指定を受けた職員向けのマニュアルの整備とその後の教養の徹底  署対処体制(当直体制を含む。)においては、各対処要員にその自覚や対応要領の理解が希薄であったことから、実効的な対処を可能とする実質的な体制を確立するため、マニュアル等を整備の上、ケーススタディ等実践的な教養を充実させるなど教養を徹底し、その役割を明確化する。 (4) 対処要員以外の職員が人身安全関連事案に係る相談等を受けた場合の署対処体制への報告を徹底するための執務資料による教養の徹底  人身安全関連事案に係る相談等については、夜間等の当直体制時や交番等において受理する場合も少なくないところ、対処要員以外の職員が相談等を受けた場合は、署対処体制に直ちに連絡して、その指揮を受けるという運用を徹底するため、人身安全関連事案を取り扱う可能性がある全ての職員に対する執務資料を活用した基本的な教養を徹底する。 3 対処能力の向上 (1) 本部対処体制による警察署への指導・支援の強化  事案に応じて、本部対処体制の現場支援要員を積極的・機動的に警察署に派遣するなど、本部対処体制の主体的・積極的な関与を徹底するとともに、警察署の体制及び対処能力等に応じた指導を強化する。 (2) 危険性・切迫性の評価方法の見直し  既存の「人身安全関連事案初動対応チェック表」に危険性・切迫性の評価項目を追加し、危険性・切迫性をより適切に評価できるようにする。 (3) 署長等への教養の強化  人身安全関連事案対処の指揮能力向上のため、新任署長、副署長研修における人身安全関連事案の対処に関する教養を必須とし、具体的なケースを題材とした指揮の着眼点等に係る執務資料等を活用するとともに、本部人身安全対策課による随時の教養を強化する。 (4) 担当する職員等への教養の強化  人身安全関連事案を取り扱う可能性がある全ての職員に対する執務資料を活用した基本的な教養のほか、対処要員として指定を受けた職員に対しては、ケーススタディ等実践的な教養を充実させる。 4 捜査の基本の徹底  臨場現場における写真撮影や指紋採取等の鑑識活動、防犯カメラ捜査等、客観証拠の迅速な保全等を徹底するため、警察署及び警察本部において捜査に携わる全ての捜査員に対し、初動捜査を含めた捜査の基本に係る教養を徹底する。 5 苦情等への対応の改善 本部広報県民課においては、「苦情」の該当性の判断や、「要望・意見等」の本部長報告に関し、不適切な運用が行われていた。 「苦情」や「要望・意見等」の受理は本部広報県民課に限られるものでないことから、苦情申出や警察相談の制度設置の本来の趣旨に則り、適切な運用がなされるよう、関係例規の見直しを行った上で、各所属の職員にも分かりやすいマニュアルを作成するなどし、その周知徹底を図る。   おわりに  本事案の検証により、令和6年6月以降、被害者の女性やその親族から人身安全関連事案としての相談等を受けていたにもかかわらず、県警察の対応に不適切な点が認められ、その結果、被疑者に対する警告・禁止命令等の措置や被害者の安全を確保する措置を講じる機会を逸したほか、ストーカー規制法違反等の捜査が遅滞したと認められた。  こうした不適切な対応を招いた背景には、人身安全関連事案の対処に係る署対処体制及び本部対処体制のそれぞれにおいて、体制が形骸化し、本来発揮すべき機能が発揮できなかったといった組織的・構造的な問題点があったと認められた。  県警察としては、相談等を受けていた女性が殺害されるという重大な結果が発生したことを重く受け止めており、被害者の女性やその親族からの相談等に対する県警察としての不適切な対応について深くお詫び申し上げる。また、亡くなられた被害者の女性の御冥福を心からお祈り申し上げるとともに、御遺族の方々に謹んで哀悼の意を表する次第である。  我々は、県民が安全で安心して暮らせる地域社会を実現するため、今回の検証で示した問題点を幹部から現場捜査員に至るまで職員一人一人が深く胸に刻み、本報告書で示した対策を速やかに実行に移さなければならない。そして、署対処体制及び本部対処体制が本来発揮すべき機能を発揮して、被害者やその親族等の安全確保を最優先とした人身安全関連事案の迅速かつ的確な対処が徹底されるよう、組織一丸となり再発防止対策に取り組んでいく所存である。